人間に悲しみも不安も苦しみという感情さえもなければ


















i  n  t  a  n  g  i  b  l  e













満月の日、少し曇り架かった暗闇は、カーテン越しに。

少しだけの光は、俯いた睫毛に









玄関が勢い良く開いた数秒後に、階段の音がした
澄ました耳に聞こえるのは、急いで苦しそうな呼吸

仁は、あたしの部屋にくるなり
ベッド下の床、あたしの隣に座って、胡座をかいた。





「やー、疲れた」

「君ん家、ここじゃないよ」

「が、俺に逢いたいかなーと思って」






身長差でできた、頭いっこ分の段
目線を合わせて、あたしの髪をくしゃくしゃにして、自分もくしゃくしゃな顔で笑う



人工的な明かりは、嫌いだ
寂しさ紛れに付けたテレビの所為で、久しぶりに見る仁の顔は
テレビに合わせて明るくなったり、陰ができたりした




「朝からのロケはキツいなーやっぱ。あの寒さはありえねーよ?」




あたしが今まで飲んでた缶のジュースを、彼は手に取り
それを目線で追うと、仁の喉仏は綺麗に上下する
それをまた、テーブルの上に置いて。軽い音がしたから、多分中身はもう空。











「どーよ、最近調子は」

「、、、元気だよ」

「うっそだー」



仁は笑いながら、リモコンを手に取り、音量ボタンを触る

きっと、あたしの声が小さくて、聞こえにくいからだ










「嘘はいけないなー、ちゃん」




「・・・仁」




ほぼ無音に近い部屋。

あたしの声は異常にくぐもった。
仁の言葉の後だったから余計、情けのない声に聞こえただろう

それが伝わった君の目は、きっと今、こっちを見てる
あたしだけが、映ってる、なんて。考えるだけで嬉しい














「仁、」

「、、、ん」





あたしの冷たい左手は徐々に、熱を持った仁の右手と、重ねられた
ゆっくり、強く




気が付けば目の前に
生暖かい、吐息




身を委ね、抱き寄せて、抱きしめられて、何度もキスをする
仁の唇は冷たくて
凍えそうな空気が立ちこめてる外を、安易に想像できた


それ以外は、なにも考えられずに























離した唇の隙間から、
ゆっくりと吐き出した言葉、俯いて半分しか見えない瞳






「・・・ココ、痛い?」







左手首の傷をそっと撫でる行為に
あたしは、抑えきれず、涙を流し、首を横に振った




何度も癒えた傷は
繰り返し、弱い、あたしの所為で、紅く染まる


















仁は、あたしを抱きしめたまま、微動だにしなかった





















時がどのくらいの速さで進んでるのか、分からない













無意味な今までは要らない
2人以外のものはなんにも要らない
まとわりつく、面倒くさいものも、2人をじゃまする原因も


独りきりの昨日は、あたしを苦しめただけだった
もう、自分をやめようと何度も思った











だけど、

生きてて良かったと、分かり易く
ココロからそう想える瞬間はイマで、無くしたくない瞬間は今で


生き帰れるんだよ

単純な人間なんだよ、本当は 本当は、








強がったってなんにも見えてこない、いつか、
言ったのは君、


それを、ちゃんと心にしまった筈なのに

君の両手が離れると、直ぐに忘れてしまう













「俺はお前に、なんもしてやれねーかもしれないけど、」



やさしく、



「けど、の傍からは、」



呼吸さえ、脳裏に残して、



「ぜってー、はなれないから」



愛情と永遠さえそこに感じて。










まだ生まれて間もない子供とおなじように、仁の肩を濡らし続けた


それで答えが見える訳でも
すべてが解決するわけでもない


だけど















まだ、これからも、今までの様に、仁を、愛したい

















ココロなんて、無形物だ
見えないからこそ、信じたい

君だから、あたしは信じたいよ
















「にんげんに、悲しみも不安も苦しみもなかったらさ」


テレビは今日の仕事を終え
音も、照らし続けた光も、無くなった


だけど、君の声が聞こえなくなることは無かったよ




「つまんねーじゃん」




握る手に汗を感じながら
それ冴えも心地よく想える





「は、ちょっと、弱いだけだよ、その分俺が強いから、大丈夫」


イヒヒ、と笑う顔は曇ってなくて
笑って、また触れる唇が、体温が。嘘偽りないモノ







同情なんかじゃない、きっと 
じゃなきゃ、疲れた身体で、こんなところには来ない

















一緒に、

一緒にいきたい
























手を握れば握り返して
名前を呼べば返事をして

有り触れた事が、ずっとずっと、愛おしく想えるのは






きっと、涙は止まるから
そしたら、君に、今日はじめて、笑うから







君が居るまで
あたしは此処に居るよ



君が居る限り、あたしは、君の隣に居たいよ



























そう、思ったんだよ?



























結局、弱いココロは、現実という敵に、
負けたんだ




















だけど、さっきの約束、守ってくれた君とは


今日から、本当に、2人きりだね



















はじめて、あたしは笑えた

仁は笑顔で、あたしを抱きしめた









左手の傷は 全く イタクナクナッタ




05.02.17
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