―!海行こ!!」


そんなに大きい声出さなくたって、聞こえる。








「・・・仁」

「何?」



窓越しから、玄関外にいる仁を見下ろす。
仁はヘナヘナ笑って、海・海と連呼。
あたしの気持ちは今、それどころじゃないのに。









「折角の彼氏のオフだよ?!」 「・・・・」
は遊んでくれないの?!」
「・・・・」









仕方なく、玄関のドアを開ける。
そしたら膨らませたビーチボール持った仁が
あたしの顔目掛けて、ゆるく投げた。








「ちょっと!」

―なんでそんなしけた顔してんの?」









誰の所為だと思ってんの?
この場で泣いて、もう、すべてぐちゃぐちゃにしたかったけど、
とりあえずは、自分を抑える。



嗚呼、外ってこんなに明るかったんだ。



久々に、空の青を見た気が、した。
それはきっと、昨日のことを忘れようとしたからだ。






忘れもしない、昨日の事を。

































「さ、行こ♪」





上機嫌な仁を後ろに乗せて、

あたしの水色の自転車は、ゆっくり動き出す。



これならいいや、
仁の顔見なくて済むし。




あたしはさっきから、考えたくないことばっかり考えてる。
しょうがない、
仁の顔を見ると、想い出すんだから。
























海までは自転車で15分、まっすぐな道を、ただ、行くだけ。
ここまで来ると、もう、磯の香りが辺りをたちこめる。

ジリジリと熱いコンクリートの上に、
二人の影と、二つの車輪。






























「バカ

「は?」

「怒れよ、バカ







仁の顔が、さっきとはうって変わって、
真剣になってることぐらい、
見なくても、解った。










それでも止まることはない、自転車のブレーキを
仁の手が、勢い良く止める。



















「ちょっ!危ない・・・」

「危ないのはの運転。変わって」
























たぶん、きっと。
仁だって、あたしの顔見なくたって、




今、あたしが泣いてることくらい、


解ったんだと、思う。





















「・・・・・」


「昨日。見たんだろ」









仁の背中に顔を埋める。

いやだったけど、

嫌だったけど、昨日の映像が、勝手に頭で動き出す。


















街で見かけたのは、仁で
仁の隣にいるのは、女の子で、

楽しそうに笑う二人を、見ない振りした。



二人あたしの横を通りすぎた。



仁は気付いてなかった、筈なのに。



















「・・・お前が居たの、知ってた」

「・・・そう」

「何で、怒らないの」


















怒る?


怒ったら、仁に嫌われるでしょ。あたしは、仁が居なきゃ駄目なの。


仁が傍に居ないと、あたしは、 。



















「・・・あれ、連れの彼女」

「・・・」

「彼氏の愚痴、聞かされた」






















何だろう、

不安は解けた、筈なのに。
なんでこんなにも、悲しいんだろう。





















「ごめんな」


「・・・ヤダ」











海はもう、すぐそこだった。






























「もう、他の人の、隣、歩かないでよ、」
「うん」

「ぜったい、あたし、束縛、し過ぎ、だよね」

「俺は、が怒ってくれなくて、もう俺のこと冷めてんのかと思った」



















風が、舞う。

鳥が、空を飛ぶ。




それくらい、あたしたちが、一緒にいるのは


あたりまえなことだと、思ってた。











だけど、昨日、仁を見たとき、嗚呼、そうじゃないのかな、って、思った。


























不安は消せない

だから、これからも、抑えられない気持ちを

束縛として、彼の前に表すのかもしれない。










だけど、彼がそれを、望むのであれば、


あたしは、我が儘を言おう


もっと、もっと、愛して、と


あたしだけを見て、と。
































「仁、香水、キツ過ぎる」


「お前がこの匂い好きだって言ったからじゃん」















かごに入れたビーチボールが落ち、
コンクリートの上で止まった。





仁は振り返る事もせずに、自転車をこいだ。




だからあたしも、振り返らずに、仁の背中に抱きついた。























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束縛されるのはスキだけど、するのはキライ。
本当に嫌われたらどうしよう、って思う。

昔、HPに通ってくれてた(る)お友達と話したことがあるけど
赤西さん家の仁君は、バカなふりして、バカじゃないと思うんです。
どっちにしろ赤西さん溺愛なんですけどね(アイタタタ)
お話の最後のところ、解ってくれたら嬉しいなぁ、なんて。

色が好きなんです、わたくし。
今回は水色の自転車ね。
剛様のオリジナルカラー「緑が好きだって言って買わされたシャツ」キュン。

04.08.12



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