キミとは今はもうオトモダチだった
キミは、あたしとは違う世界で仕事をしていた

午後5時の突然の電話
何か言おうとして途切れた声に、俯く君が容易に想像できて
それはあまりにも苦しくて
白い息が視界を邪魔する中、あたしは夕闇を走った










セキデン 永遠ではないけれど












仕事が忙しいっていうのは人伝いに聞いた
女遊びが激しいっていうのも人伝いに聞いた



どっちも、あたしの脳裏から離れることはなかった
同時に、昔の和也が、あたしを蝕んでいった
あの頃のキミはまだ、あたしの事ちゃんと名前で呼んで
たわいもない話して、笑ってる

だけど今だって、
昔の記憶がどうしても、蘇ってしまうんだよ




喧嘩した理由だって曖昧で
あんなサヨナラなんか勿論納得してない
だけど、和也はもう、後ろ向いてない
自分の気持ち押し殺してでも、それを受け止めようと思った


―矢先。











あたしが、和也の事あきらめれる筈なくて。
きっとそれは、あたしの事一番よく分かってるアイツが、知ってる。


「・・・」


公園に一つの陰が見えて、それは和也だって確信した

その陰は、両手を擦って暖めながら
段々と近づくあたしの陰に、少しびっくりしていた


「おま・・・何してんの」


乾ききった声。暗闇に慣れた目線を和也に合わせて
一歩ずつ傍に寄る



「電話の声が・・・変だったから」
「・・・」
「なんか・・・あった?」
「ごめん、何でもねーよ」



ぎこちない会話なのはあたし自身が一番よく分かった
ベンチに腰掛ける和也は端に移動して、あたしが隣に座れるようにした
走って息は切れてるのに、両手だけは悴んでいて


「・・・」


俯いていたキミは、少しだけ、顔を上げた


あたしは、息が詰まりそうになった




「かず、」
「なあ、俺って、こんな奴だったっけ」



もう、名前さえ呼ばさせてくれないの?
確か和也は
こんな表情をする人じゃなかった

無理に笑おうとする人じゃなかった











「俺が仕事しはじめてから」
「・・・うん」
「自然と女が周り取り囲むようになったんだけど」
「・・・」
「俺のこと、ちゃんと分かってる奴なんて誰もいないんだ」





淡々とした口調。
前にあるブランコが、風に揺れてギシギシと音を立てた
和也はそれにも目を向けず、ただ下を向いたまま
あたしたちは、一緒の空間に居るのに違う場所に居る様な感覚さえ覚えた





「だから、そいつら全員、傷つけて、それで満足して、」
「・・・」
「そんな生活送ってたらさ、俺」



「何を信じていーのか、分かんなくなった。もーそろそろ、限界だわ」





馬鹿だよね、って付け足して
君は、ベンチから離れようとした、とき

あたしは、無意識に

和也の服の袖を引っ張っていた







「和也」


久しぶりに口に出した名前
それでも、前見たいに、あたしの中で和也を呼ぶ感覚は
失ってなくて
































「和也、あたしじゃ、だめ?」


初めて目線を合わせた
脳で考える余裕なんて無かった



「あたしは、和也のいいところだって悪いところだって
見てるよ、だって、和也はあたしに全部を見せてくれた」

自分の右手を握りしめた
ただ、勝手に出てくる言葉を落とさないように
こんなにも必死なのは、ぜんぶ

君の所為だよ

「人をからかうの大好きだし、女の子好きだし
感情すぐ人にぶつけるし、大事なことすぐ忘れちゃうし」

「・・・」

「あたしの料理マズイって言うし、テレビのチャンネル勝手に変えちゃうし
外出ると恥ずかしいからって手繋いでくれないし、それから・・・」

「まだ、いっぱいあるけど、でも・・・いいとこだってそれくらい・・・
もっといっぱいあって、」














「あのとき別れたのは、和也の、優しさじゃないの?」



ずっと言わなかったこと

・・・ずっと、言えなかったこと






「和也は、あのとき、あたしの事を想って、別れようって言ってくれたんじゃないの?」
「・・・」
「そうでも思ってなきゃ、あたしは、今までやってこれなかったよ」






































「俺、さ」




視界がきかなくなった目に、
和也のおおきな手が触れて
涙が、掬い上げられた

「どうしようもなくなったとき、何回も、お前に会いたいって思った。
でもそれじゃ、せっかくあんな想いして別れたのにって、自分で抑えたんだ」

君の声は、かすかに、震えていた。





「知らない間にさ、お前の番号に掛けようとしてんだよ。こえーよな」


和也は、笑った。

ポッケにしまってあった片方の手を差し出して、
その手は、悴んで動かない、あたしの右手を掴んだ。

















リアルな体温。それから、あたしがずっと伝えたかった、“愛してる”。


安心したら気が抜けて。その場に座りこんでから気付けば
今日は、ちいさな霙が空から落ちていた。
霙が頬を伝い泪と一緒に零れ落ちて、

「」

久しぶりに聞く、好きな人から呼ばれた自分の名前に
酔いしれながら、泪の先を拭う。

気が付いた時、あたしと同じ目線でしゃがみ込んで
そんな優しい顔するから

あたしは、和也からの優しいキスを待った。





05.02.02
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