アマオト
ハガレタペディキュア









イトシキミ

















ジツ























それは、忘れられない昼下がりでした

雨はしとしとと、地面を濡らし、時々、屋根に雨粒が落ちる音が聞こえました
















湿度が増して。心地悪さを覚えた身体

床を歩くとペタペタと音を鳴らす足下を止め、耳を澄ます














パチン、パチッ
雨の音とは別に聞こえる、定期的な擬音語




「和也、そんなとこに居ると濡れるよ」

「んー、だいじょーぶ」




適当な返事。
石段から跳ね返る水は、まだこの季節冷たいだろうに


来るなり、縁側にドカっと座った和也は、
何故か、爪切り貸して、と、自分のツメを切り始めた




「朝から雨でやんなっちゃうねーちゃん」

「何オバサンみたいな事言ってんの」




アハハと、声だけで笑ったキミは、
こっちを見ずに、黙々と自分の足下の作業を続けた
あたしは、和也の方に近づいて 曇った天井を、前にそびえ立つ庭の木の間から見る 雨は、やみそうにない それどころか、強くなってく一方だ ああ、これじゃあ、明日も太陽は見れないみたい アレ、 声の主を見下げると、君の手は止まって あたしの裸足の爪を軽く触った 「これ、」 「うん、和也に、前、付けてもらったやつ」 「もう剥がれてんじゃん!塗り直せよー、一応女なんだからさあ」 何週間か前、練習台として付けてくれたペディキュアは 未だ、あたしの足に残ったまま どうしても、取れなくて 虚しく、爪先だけに残る黄色 “一応”って何だよ、 想像通りのつっこみだったのか、和也はまた口を開けて笑った 君の理想は、果てしなく遠い それは近づけるものでもなくて、 “友達”という名前が定着してしまったあたしには 離れてくばかりなんだろう こんなに傍に居るのに どこの女の子よりも、傍に居る時間は長い筈なのに うっかり、視界がきかなくなった目を擦ると 和也は爪を切り終えて、重そうに腰を上げた 「じゃ、俺帰るわ」 「・・・何しにきたの?」 「えー、だから・・・爪を切りに」 二人、目線が合って、笑う 傍に置いてあった自分のジャンプ傘を広げ、 もう一度、軽く、じゃ、と言った 和也の笑顔は、歯止めをしておいた筈のあたしの気持ちを、 見事に溺れさせ、 そしてまた、その分だけの辛さが 眺める背中と一緒に、じわじわ襲う ・・・・・ 「あ、」 ピタリ、足を止めて、もう一度こっちを向いた和也は さっきの笑顔のまま、あたしに向けて、何かを投げた ゆるりとカーブを描いた、小さい袋 「これ、何?」 「なんだと思う?」 本当に、考えつくものなんてなくて、 首を傾げたあたしに、 口元に右手を添えて、小声で喋った 「ホワイトデーじゃん?今日」 あ、と、小さく漏らした自分の声 そういえば、気付けば3月も半ば だけど 「あたし・・・和也にあげてないよ」 頭の中には、今から丁度1ヶ月まえの記憶 今更、渡すなんて、変だと思って ずっと考えたけど、やっぱり、 漫画に出てくるような、よくできた女の子じゃないし、あたしは
そうやって、何年も同じ様な事を繰り返し。 「もらったよ、俺。お前、気付いてなかったの?」 和也の言葉に、無意識のうちにあたしは自分の部屋に向かって 走っていた 階段を勢い良く登り、辿り着いたドアを開け、 急いでて躓き、自分の前でひっくり返るプラスチックの箱の中身を 探す 「・・・ない」 そう、一ヶ月前に捨てた筈だった 和也への今更バレンタインと、出来る限りの言葉の寄せ集め 雨が降ってるにも関わらず、部屋の窓を開けた 横振りの雨は、お構いなしに部屋の窓下を濡らす 「ない」 「そりゃ、ないっしょ(笑)俺のだもん、あれ」 「・・・いつ?」 「この前、借りたCD返しに来たとき」 下からあたしを見上げる和也、さした傘はもう意味をなしてないようで 開いたまま、青い取っ手は、和也の手から離れた 「さ、文章力ないよね」 「・・・ナイ」 「結局、好きなの?嫌いなの?」 あやふやに並べた言葉。あれじゃあ、誰が見たって何の手紙かわからない 黙るあたしに、なあ、と、大きな声が下から聞こえる
「・・・キライだよ」
雨は大嫌いだった だけどそれはいつか、君と一緒に帰った記憶の所為で、嫌いじゃなくなった
中途半端をきらうあたしが 剥がれかけたネイルを見て、幸せになる そんな、自分が、キライだ つまらない、和也のちょっとしたことだけで 全てが動いてしまう、自分が それでも、どうしても動かない気持ちが あたしの返事に和也は笑った 全部、見透かした、あたしの、好きでキライな笑い方 降りしきる雨なんて、気にならない 今は、自分の涙をこらえるので精一杯だった 「嫌いなの?」 もう一度叫び返された言葉に、またも唇を噛み締める きっと今度は、雨の中傘もささずに居た和也がそのうち風邪引いて そんな単純な理由で、また雨が嫌いになんのかな 「キライ・・・じゃないよ」 おそるおそる口から吐いた言葉 悔しいから、言わせようとするから、好きだなんて言わないよ 嫌いだよ、和也。大嫌いだけど大好きだよ和也 君は楽しそうに笑う、今度はちゃんと、こっちを向いて。 それから、曖昧に、いや、ハッキリと聞こえた、愛し和也の低いこえ 「俺も、嫌いじゃないよ」
05.03.13
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